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「アンケート法による無歯顎補綴患者の咀嚼機能評価」
北海道医療大学 歯学部 教授 教務部長 越野 寿
はじめに
 咀嚼とは、食物の取り込み(捕食)、咬断、粉砕、混合、食塊形成、咽頭への送り込み、嚥下までを含めた一連の流れをいう。咀嚼は栄養摂取の観点からも生命を維持する上で欠かすことのできない重要な機能の一つである。しかし、歯の喪失により咀嚼機能は著しく低下することとなる。
 無歯顎患者においては、全部床義歯補綴治療によって咀嚼機能を回復することとなるが、これには術者側因子のみならず患者側因子が大きく影響することから、適切な治療計画立案や治療効果の判定において、適正かつ簡便な咀嚼機能評価法が必要となる。
 本稿では、極めて簡単に咀嚼機能評価がおこなえる「摂取可能食品アンケート法」を紹介する。
種々の咀嚼機能評価法
 咀嚼機能評価は20世紀前半頃からおこなわれるようになり、Manlyのピーナッツを用いた篩分法は、多くの咀嚼機能評価法の原点となっている。また、咀嚼機能評価法は直接的評価法と間接的評価法の2つに大別することができる。直接的評価法には主観的機能評価法と客観的機能評価法があり、前者は咬度表や摂取可能食品アンケート表などを用い、後者ではグミゼリーや色変わりチューインガム、ピーナッツなどの咀嚼試料を用いる。一方、間接的評価法は、咀嚼時の下顎運動や咬合力、咬合接触状態などから評価する方法である。
 直接的評価法、間接的評価法にかかわらず、多くの客観的評価法は咀嚼の一部分の評価であったり、特定の食品に対する咀嚼能力を評価するものであり、総合的な咀嚼能力を評価する際には、複数の咀嚼機能評価法を併用して多面的な評価をおこなうことが望ましいとされている。
[ 表1 ] 摂取難易度表
[ 表2 ] 摂取可能食品アンケート表
[ 表3 ] 摂取可能食品アンケート表
摂取可能食品アンケート法の概要
 ここに紹介する「摂取可能食品アンケート法」は、アンケート用食品が考慮されていること、評価基準が明確であること、客観的方法とされる篩分法による評価結果との間に高い相関が得られていることなど、主観的方法ではあるが客観性を有しており、臨床的有用性が高い方法である1,2,3)
 本法の開発にあたっては、予備調査として食品成分表にある170品目の食品を選択し、これを50音順に並べたアンケート用紙を作成し、新・旧義歯における摂取可能状況を調査した3)。この結果をもとに、嗜好性、硬さ、調理法などを考慮して選択した35品目から成る摂取可能食品アンケート表を作成した。特に、調理法によって摂取難易度が大きく変化する食品においては、“生”“ゆで”“煮”などと調理方法を明示することによって、食品の物性の条件設定を厳格にした3)。嗜好性の高い食品を中心に食品数を減少させること、機能状態に拘わらず「食べないこと」が「0点」に扱われない評価結果の数値化を目的に、さらなる検討を加えた1)。最終的には、摂取難易度として5群、各群5食品の合計25食品から成るアンケート表を作成した(表1、2)。さらに、咀嚼機能の点数化に際しては、食品ごとの得点の積算によって算出していた咀嚼スコアを、食品群ごとの平均点から算出する方法に変更した(表3)。これによって、「嫌だから食べない」あるいは「食べたことがない」食品が評価対象から除外されることになり、嗜好性が強い被験者においても適正な評価結果が得られるようになった。
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[ 図1 ] 評価結果
咀嚼スコアの算出
 この評価法については、Microsoft Excelで、表1に対応したアンケート表に回答を入力することで、図1に示す評価結果を出力する簡易ファイルを準備した。これは、シート内のセルにアンケート結果を入力するだけで、咀嚼スコアを算出し、標準値とともにグラフ化して表示するものであり、患者さんへの説明にも使える書式となっている。なお、顎堤の吸収程度に対応した参考値を併記している。


1) Koshino H et al, Prosthodont Res Pract 7: 12-18, 2008.
2) Hirai T et al, International Journal of Prosthodontics 7: 454-460, 1994.
3) 安斎 隆ら, 補綴誌 31: 1413-1420,1987.
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越野 寿(こしの ひさし)
北海道大学 歯学部 教授 教務部長
昭和35年11月28日生まれ
【略 歴】
1985年 3月 東日本学園大学歯学部卒業
1993年 9月 博士(歯学)取得(北海道医療大学)
1985年 4月 東日本学園大学歯学部臨床研究生
1985年10月 東日本学園大学歯学部助手
1993年11月 東日本学園大学歯学部講師
1996年-1997年 米国UCLA歯学部客員研究員
2003年 4月 北海道医療大学歯学部助教授
2007年 4月 北海道医療大学歯学部准教授
2010年10月 北海道医療大学歯学部教授(現在に至る)
2013年 4月 北海道医療大学歯学部教務部長(現在に至る)
【所属学会】
公益社団法人日本補綴歯科学会 代議員 支部理事
一般社団法人日本老年歯科医学会 代議員
特定非営利活動法人日本咀嚼学会 常任理事
日本磁気歯科学会 理事