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(133)「口福」を師資相承

メディア 日本歯科新聞 掲載日 2012年08月28日

さじかげん (133)「口福」を師資相承

 

 この夏の初め、東京・浜松町で開業されている小嶋榮一先生にお会いした。インプラント治療に人生をかけ、76歳の今も生涯現役を貫いている。先生はとてもお元気で、先生が語られる言葉は生き生きとしていて深みがある。

 お会いした時にとても素晴らしいエピソードを聞いたので紹介したい。

 

 今から約40年前、銀座四丁目で開業されていたころ、歩いてわずか3分ほどの所に補綴の大家である故・河邊清治先生のオフィスがあり、何かとかわいがっていただいたそうだ。しかし河邊先生はインプラントが大嫌いで絶対認めようとはしなかった方なので、厳しい指導をお受けになったであろうことは推測がつく。

 その河邊先生が30年前に出版された無歯顎の臨床についての3冊の著書を小嶋先生は今でも大切に所蔵されている。本を購入する時に、専門書店の社長に頼み、めったにサインをすることのなかった河邊先生から直筆サインをいただいたという。

 そこには「生涯現役」「口福」、この二つの言葉添えられていた。生涯にわたり臨床を貫いた大家らしい言葉である。河邊先生を師と仰ぐ小嶋先生も「生涯現役」の言葉通り今なお臨床の第一線で活躍されている。

 もうひとつの「口福」は、懐石料理の大家である辻嘉一氏が河邊先生の治療に感謝して贈った言葉だそうだ。一流の料理人が幸福を噛みしめて感じた言葉であろう。

 口の漢字の由来は顔にある口ではなく神への祝詞を入れる器を表し、福の漢字の右側のつくりは酒に満たされた容器を表していて神に供え、大切なものを周りに分け与えることが幸せをよぶ、とある書物で読んだ。

 

 「師資相承」は小嶋先生の座右の銘である。「生涯現役」を師に学び、その思い・技を受け継いでいく。大家と呼ばれる方々は究極の思いを端的な一言に託すのであろう。

 「師資相承」、その教えと技は受け継がれ、その言葉通り、河邊先生の思いを見事に我々に伝えてくれている。

 辻留・辻嘉一語録「料理秘伝」には「料理は口で食べることはもちろんですが、目で食べ、鼻で食べ、耳で食べ、心で食べます。それだけに料理は食べる人の身になって作ります」と書かれている。料理は一人一人へのおもてなしだと述べている。

 「口福」は補綴を業とする我々が最も受け継ぐべき思いである。

 患者さんの幸せのために、患者さんに幸せを感じていただくために「口福」を師資相承しなければならない。(W/W)

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