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(132)調和のなすもの

メディア 日本歯科新聞 掲載日 2012年07月24日

さじかげん (132)調和のなすもの

 

 初夏のある日、瀬戸内海を望む豊島唐櫃の小高い丘にある豊島(てしま)美術館に足を運んだ。

この美術館は芸術家、内藤礼氏と建築家、西沢立衛氏のコラボレーションによるもので、自然の摂理を見事に表現していると大いに感銘を受けた。

西沢氏の言葉を借りると、環境と建築が争わないように意図し、瀬戸内の水滴のような建物を創造している。そして、内藤氏のテーマである地上の生「母体」が館内の空間にある。

泉が湧き出る仕組みを眺めているうちに、かつて開発したメッシュプレートのデンチャーを思い出した。

 

 田舎には直線がない。これも西沢氏の言葉で、便利な街に住み慣れると気づかずにいることだが、言われてみれば確かに街は直線の空間だ。

一方、自然は曲線の世界。海、波打ち際、曲がったあぜ道、流れる川の水。たまたまわき水などを見つけると足を止めてじっとわき上がる川砂を見ていたものだ。

誰の記憶にもあるのではないか。

 

口腔内にもまた直線がない。

われわれのつくる補綴物も自然摂理との調和が必要であることは明らかだ。

メッシュプレートには唾液が金属に浸透することで快適性を求めたのだが、今の時代であれば抗菌性を考えたり、脂分など、もっといろいろなものを浸透させる仕組みが必要になったりするかもしれない。

おそらく今後、新しい独創的な補綴物を創造するには、今一度自然を見直して摂理と調和するということがテーマになるのではないだろうか。

いろいろなシステムに頼るのも悪くはないが、なぜ歯はこの形をしていなければいけないのだろう。1番から7番のそれぞれの役割はなんだろう。なぜ歯列には湾曲がついているのだろう。正しい顎位ってどこだろう。食べ物を食べる時、顎はどんな動きをしているのだろう…。

本来、こんな素朴な疑問に明確に答えることができなければ歯はつくれないはずである。

患者さんはみんな分かっているだろうと思っているに違いない。

 

自然の摂理とは現代の科学を以ってしても人間が予想できるようで、できないものなのかもしれない。

補綴物のゴールは単に生体に合致するだけでなく、自然摂理との調和に真の価値があるのではないか。

決して探求の歩みを止めてはならない。

(W/W)

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