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(129)青春片道切符 旅せよ青年

メディア 日本歯科新聞 掲載日 2012年04月17日

さじかげん (129)青春片道切符 旅せよ青年

 善きにつけ悪しきにつけ、旅の経験はその後の生き方に大きく影響を及ぼすものだ。

 特に旅先でのご恩や失敗は歳を重ねても忘れることなく人生の教訓として心に刻まれている。

 これは知人のエピソードである。

 1974年、彼は入社間もない18歳の青年であった。初めての出張に心をときめかせ、先輩の背中を見ながら意気揚々とついて行く。出張先は博多。仕事より歓楽街に心奪われていることを青年は黙ってはいるが、緩みっぱなしの口元を見逃す先輩ではない。

「おい、これで遊んでこい」。食事の後、先輩は財布から一万円札を抜き出した。青年は夜の中洲へ飛び出して、大いに男ぶりを挙げた。気分がいい。上気したまま宿に戻るが、寝るにはちょっと惜しい。ふと目に留まった部屋の電話の前に「ご自由にお使いください」との案内がある。「そうだ。故郷の友達に電話をしよう」と思いつき、次々に電話をかけて今日の顛末を自慢するのに夢中になった。知らぬまに時が過ぎた。

 翌朝、フロントで耳を疑った。「電話代のご精算が二万五千円になります」ご精算? ご自由はタダということじゃないのか? 真っ青になって先輩に相談したが、到底ふたりの持ち合わせでは足りなかった。残金は必ず振り込むとその場をしのいだが、こんどは切符代が足りず途方に暮れた。困り果てた先輩が「ジャンケンで負けた方があの女性にお金を無心しよう!」と泳いだ目でホームの先に立つ赤いワンピースの女性を指差した。ジャンケンは青年が負けた。うつむき加減に実にみすぼらしく声をかけたので女性の顔すら覚えていない。

 「いいよ」。それだけはっきり聞こえて、白い手が一万円札を差しだした。

 心の中で昨夜の自分をののしった。ふさいだ気持ちでいすにすわっていると先程の赤いワンピースの女性が紙袋を持ってやってきた。アンパンと牛乳が入っていた。それを手にしたとたん溢れ出した涙がひざを濡らした。

 あれから37年が過ぎたが、ついにお礼ができなかったという。こともあろうに連絡先を書いた大事なメモを失くしてしまい、どこを探しても出てこなかったらしい。

 昭和という時代の温かさなのか。以来青年は「人を想う親切心」を教訓として仕事に励み、今は立派に企業の重役を務めておられる。

 失敗からは学ぶことのほうが多い。むしろ成功は奇跡なのだ。成功は、あきらめずに積み上げた結果でしかない。「継続は力なり」、失敗を恐れずに挑戦し続けよう。

 春は新しいスタートの季節である。青春片道切符、旅せよ青年。

 親切心だけを旅行カバンに詰めてゆけ。 (W/W)

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